葬儀と礼装 〜葬儀にポケットチーフはNGではない!?〜


葬儀にカフスボタンやタイバー(ネクタイピン)などの金属の小物やポケットチーフなどは華やかすぎるので非常識です。

という、おかしな「マナー」をよく耳にする。

カフスボタンは正式にはカフリンクス、ポケットチーフも正式にはポケットスクウェアと呼ぶ、ということはともかく、カフリンクスやタイバー、ポケットスクウェアは別に「晴れの日」を演出するためにあるものではなく、どれも元を辿ればカフスを留めたり、タイを固定したり、涙や汗を拭いたりするためのハンカチーフという実用的なアイテムであった。

ポケットスクウェアやカフリンクスなど、形式だけが残った現代では、それらは実用する必要がなくなりつつあるし、タイバーでタイを留めなくても著しく不便というわけではないものの、それは単なる「おしゃれ」のアイテムではなく

「より正式な服装にすることで相手に敬意を払うために」

着用するものなのだ。

例えば、胸に挿すポケットスクウェアは、ただ「涙や汗を拭くためのハンカチーフを胸のポケットに挿しただけ」である。

そもそも、戦前は普段のスーツにも挿していたようだが、ウエストコート(ベスト)のように時代とともに省略され、今ではあまり用いられなくなったものの、礼装の場合には省略せずに、服装をより正式で格式張ったものとするために挿すのである。

それが非礼であるという根拠は今も昔もどこにもないし、それは失礼な行為というよりむしろ、省略せずにわざわざハンカチーフを挿す、という少し手間のかかる丁寧な行為なのである。

これこそ日本人が愛する「おもてなし」の心に繋がると私は考えるのだが、いかがだろうか。

「葬儀ではネクタイピンなど、光るものはNGです」と言われるが、そんなことを言ったら、金属製品は何も使えなくなる。

「革は摂政を連想させるのでNG」というのは宗教的な理由として理解できる。

しかし、タイバーに関して言えば、タイがずれないように留める実用的なアイテムなのだ。

なぜそこまで禁止するのか、理解に苦しむ。

「マナー」とは実に難しいものだ。

「装飾品は一切着けないのが故人や遺族に対する当然のマナーだろう」


と考える人もいれば、

「むしろタイを固定せず、だらしなくブラーンと下げているほうが故人や遺族に対して失礼なのでは?」


とか

「なんとなくそのほうが良さそうな感じがするからと言って何でも根拠もなしに強制することこそ、参列者を軽視した悪いマナーでは?」


と考える人もいるだろう。

参列者が

「故人や遺族の皆さまに敬意を示すために、略式のボタン付きのカフスではなく、正式なカフリンクスを用意させていただきました」


と思っているのに、相手に「弔事にカフスボタンなんて非常識」と思われては、たまったものじゃない。

日本では「その場の空気を読む」ということが美徳とされるが、そのままではただ誤りがまかり通るだけである。

ここで少し脱線するが、しばしば議論になる「エスカレーターの片側空け問題」も、マナーを巡る問題だ。

「片側を空ければ急ぐ人に対する配慮になるのだから、片側空けは良いマナーだ」


という意見で(一応)成り立っているが、

「子どもを横に立たせて、安全のために手をしっかり握って乗りたい」

という人や、

「怪我や病気で片手が不自由なので、空いている片側に立ってそちら側の手すりに掴まりたい」

といった社会的な弱者の意見を無視した、悪い習慣という意見もあるだろう。

「マナー」というのは、誰もが気持ちよく過ごせるためのもの、というのは一般的な見解だと思うが、現実的に考えれば、そんな満場一致になることは滅多にないだろう。

だからこそ私は、

「タイバーは単にタイを固定するためのアイテムで、別に故人や遺族に対する冒涜の意味が込められているわけでも何でもないのだから、別に問題ないと思いませんか?」


「胸にハンカチーフを挿すのは、服装をより丁寧でフォーマルなものにするための身だしなみなのだから、葬儀でも問題ないと思いませんか?」


と問うているのである。

正しい知識がないと、そもそも何が正しくて何が間違いなのかがわからなくなってしまうだろう。

「知識不足」


これが、このような誤解が生まれてしまう大きな原因なのだ。

その正しい知識を知る機会が少ないから、誤った独自解釈が生まれてしまうのだ。

紳士服ガイド 〜スーツから礼装まで〜

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