新郎にタキシードをおすすめしない理由
以下、「タキシード」ではなく、あえて「ディナージャケット」と呼ぶ。
というのは、「タキシード」という単語を「モーニングとか燕尾服とか、そういった礼装のこと?」と勘違いされている方が多いというのが1つであり、
2つ目に、「ディナージャケット」という単語そのものが、「ディナーすなわち夕食の際に着るジャケット」とそのままの意味で、着用シーンが非常にわかりやすいためである。
3つ目に、単に著者が英国が好きであるからである。
さて、ここでは洋装の結婚式を想定していることは言うまでもない。
ということは、花嫁はおそらくウェディングドレスであろう。
ウェディングドレスは、結婚式における花嫁の正礼装(最も格上な礼装)である。
格を表す「松・竹・梅」でいうところの「松」である。
そして、男性の正礼装、つまり「松」に当たる服装は、日中はモーニングドレス、夜間は燕尾服(ホワイトタイ)である。
ディナージャケットは本来は夕食時に着るような服装で、準礼装(正礼装より格下)扱い、すなわち「竹」である。
ディナージャケットには黒いボウタイ(蝶タイ)をするため「ブラックタイ」、燕尾服は白いボウタイをするため「ホワイトタイ」という通称があるが、もしも食事会の招待状に「ブラックタイを着用してください」とあれば、「ホワイトタイの正礼装じゃなくて良いのか」と、カジュアルな食事会であるということの暗示であった。
ダウントン・アビーという英国のドラマで、ホワイトタイ着用の夕食の席で、訳あってブラックタイを着用していた男性が、彼の母親から「給仕かと思った」と皮肉られているシーンがあったことからも、ディナージャケットが格式であることが伺える。
また、英語版Wikipediaの’Black tie’の項に、このような文章があった。
「過去20、30年で、アメリカにおけるフォーマルな日中の結婚式で、伝統的なホワイトタイやモーニングを着用するような場でブラックタイをしているのが多く見られる。
しかし、エミリー・ポスト(1872-1960)やエイミー・ヴァンダービルト(1908-1974)のようなエチケットと服飾の専門家たちは、ブラックタイを結婚式や午後7:00より前のイベントで着用することはインフォーマルすぎるとして反対したり強く非難し続けており、後者は『教会での結婚式にタキシードを着るべきではない』と論じている。」
つまり、新郎新婦の衣装に釣り合いを持たせるには、
「花嫁はウェディングドレス、花婿はモーニングドレスやフロックコート、もしくは燕尾服」
が当然だし、そもそもディナージャケットは夜限定の服装だから、日中に着るのはおかしいのである。
これは多くの人々(結婚式コンサルタントや貸衣装屋ですら)見落としている。
誰がなんと言おうと、これは不変の原則である。
ただ、19世紀のフロックコートはもはやほぼ絶滅してしまったし、燕尾服も需要の減少に伴い、非常に入手しにくくなっているため、紳士服量販店でも入手できるモーニングドレスをおすすめする。
「フロックコート」「燕尾服」の名前を語る貸衣装には気をつけていただきたい。
スーツや礼装の歴史に詳しい者からすると、あんなのはとんでもなく酷く、ダサく見える。
結論として、
「花嫁はウェディングドレス、花婿はモーニングドレス」
と覚えていただきたい。
しかしながら、どうしても派手な衣装で目立とうとする花婿が非常に多いように感じる。
それはまるで、成人式にド派手な衣装で登場するやんちゃな子供たちのようだ。
男性は、主役である花嫁の純白のウエディングドレスの美しさを、黒の正礼装で際立たせる役割を果たすべきなのだ。
「花婿だって主役では?」と思った男性も少なからずいるだろう。
確かに、その通りではある。
ただ、花婿が一生を共に歩んで行く花嫁を紳士的にエスコートする第一歩、それこそが結婚式なのであることを忘れてはならない。
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